僕が闇金ウシジマくんの中で一番好きなストーリーはこの「フリーターくん」編なんですが、主人公と言える宇津井優一の行動を、主に食事シーンにフォーカスして読んでみようと思います。
フリーターくん編はコミックス7巻後半〜9巻までです
最強クズ無職宇津井くん
35歳無職弱者男性宇津井の登場シーン。いきなり消費者金融からのパチスロというパワームーブ
当然負けます。
こんな感じでずるずる負け続けた借金が218万円。フーテンの宇津井には返済不能な大金です。
宇津井は親と同居していますが、当然関係は最悪です。両親も両親で、父は家族に相談もせずに会社を早期退職、母は株の信用取引に手を出して大損を出しています(これが後に丑嶋たち闇金に狙われるきっかけになります)。
家での宇津井両親
基本夜型の生活の宇津井と両親は生活リズムも合いませんし、父親と母親も食卓をともにしている描写がありません。もうほぼ家庭崩壊してる状態です。
飯を食う宇津井
客観的に見て非常にまずい状況下にある宇津井ですが、当人はイマイチ危機感がありません。「最悪父親の退職金と年金で暮らせばイイ‼︎」「それに俺は持ち家も相続できるんだ‼︎」と都合のいい人生設計を掲げ、朝からパチスロに並んで問題の根本と向き合おうとしません。
宇津井は基本一人飯の描写しかありません(「うめェッす!」って誰に言ってんだこいつ)。そもそも彼には友達と言える存在が一人もいないのです。
そんな宇津井のライフワークはブログ執筆で、彼の心理状態が追える仕掛けになっていますが、執筆中も一人で食ってます。
ところで食べてる時の宇津井、「うまっうまっ」って言ってることが多いんですが、これってなんででしょうね。家族との関係が希薄で、女性にもモテず、小学校の同窓会にも呼ばれない宇津井くん、人間のあらゆる欲求が満たされていない中、唯一食欲だけがきちんと満たせるものとして存在していたからなんでしょうか。
そんな宇津井家ですが、話が進むごとにガンガン転落していきます。宇津井母が信用取引で追証→丑嶋社長のカウカウファイナンスに借金→丑嶋社長の知り合いの怪しい証券マンたちに騙されて結局家と退職金を手放し、団地暮らしと、清々しい転落ムーブを決めています。
宇津井家の面々は知る由もありませんが、裏で暗躍していた丑嶋たちにまんまと嵌め込まれていたのです。もし宇津井父が早期退職の相談をしていれば、宇津井母が株の信用取引に手を出さなければ…と、引き返す道はいくらでもあったはずなのですが、彼らには無理だったのでしょう。宇津井家には「家族団欒」というものが存在していなかったからです。
だからこそ父は妻に黙って退職してしまいましたし、母は信用取引の損失を夫に相談することができませんでした。そして息子の宇津井も家族関係に無関心だったため、最悪の事態に陥ってしまったのです。
家を出た宇津井
こうして家を勘当された宇津井は日雇いで日銭を稼ぐ日々を過ごすことになります。
最初はゲストハウスで過ごしていたのですが、他者とのコミュニケーションを放棄していた宇津井はここでも孤立してしまいます。
それでも頑張って生活も軌道に乗りかけた矢先、腰を痛めて仕事ができなくなった宇津井はゲストハウスからも追い出され、ホームレスに転落します。
炊き出しの雑炊をもらって「うまっうまっ」な宇津井
ヤンキーに襲われて怪我をし、観念して家に電話したところ、母親が倒れたことを知った宇津井。慌てて家に戻り、そこでようやく家族と向き合うことになります。
取り戻した家族の絆
家族の食事を眺める宇津井
フリーターくん編の最終話になってようやく、宇津井家は家族が揃って食卓を囲むことができました。それは以前は確実にあったはずの家族団欒の時であり、家族の絆を再び得ることができた象徴なのでしょう。
このシーン、宇津井はもう一人でガツガツ食事をしていません。家族団欒の光景を見つめる宇津井の表情はどこか幸せそうです。
そしてラストシーン、夜勤に向かう宇津井が家を見上げます。
ここ、いいですよね。闇金ウシジマくんの作中でもトップクラスの名シーンだと思います。