楳図かずお先生の数々の恐怖漫画の中でも1番怖いかもしれないのがこの本です。
「顔」を失う恐怖
短編集ですが、顔をテーマにした話を集めています(「死者の行進」は戦争をテーマにした話でちょっとテイストが違いますが)。
特に恐ろしい話が「おそれ」です。これは、優しく美しい姉が事故で美貌を失い、恐ろしい怪物に変貌を遂げてしまう…という話です。それだけではなく、「姉妹のいびつな関係」が背景にあり、のちに伏線として回収されていきます。
自分が自分でなくなる恐ろしさ
僕がこの話の何が怖いって、顔がなくなってしまうことで今までの自分が自分でなくなってしまうことです。顔を失うといっても死ぬわけではありません。傷がついただけで中身は変わっていないのにもかかわらず、です。
自分が自分であるという確信は、自己意識も当然必要ではあるのですが、それと共に他者に自分の存在を認識してもらい、評価されていることで成り立ちます。他者からの評価に大きく関わるのは外見です。もし自分の外見が大きく変わってしまったら、そして他者からの評価が一変してしまったら…という恐怖を、「顔をなくす」ということで象徴的に表現しているのです。
この恐ろしい女がかつて美しかった姉なのですが、顔を失い、心まで変貌してしまいました。いや、元からあった本性が顔という仮面を失うことで表に出てきたのかもしれません。この後姉は失った美しい顔を取り戻すために恐ろしいことを始めるのですが…。
似たような話として、犬木加奈子先生の『笑う肉面』という話もあります。ここでもサユリという美少女が策略によって自分の美しい顔を失う…という展開になっています。これもえぐい話です。
外見の力は強いよね
「顔」を失い、自分を失った姉と、美しかった姉に翻弄された妹の物語の結末はドンデン返しが待っていました。実は姉が顔を失うきっかけになった事故も、姉が過ちを犯し破滅したのも全ては妹の謀だったのです。
この妖艶な表情、女の怖さと美しさにゾクゾクしますね。姉が絶世の美女でなければこの妹も美少女として姉妹仲良く暮らしていけたかもしれないと思うと、文字通り美しさは罪なのかもしれません。