皆さんはアニメでやってた「まんが日本昔ばなし」ってご存知ですか?若い世代で見てなくても、「いいないいな、人間っていいな」のエンディングは聞いたことある人も多いんじゃないかと思います。僕も小さい頃はなんとなく毎週見ていたんですが、中にはトラウマものの怖い話も結構あったんですよ。
そんな中でもトップクラスに救いのない話は…というのでよく話題に挙がるのが、「とうせん坊」というお話です。(YouTubeで視聴できますが、気分が落ち込んでる時は見ない方がいいと思います。)
救われない被迫害者
主人公の「とうせん坊」は物心ついた時から親もなく、図体はでかいが頭も悪く周りから虐められていました。ある時観音様に百人力を授けてもらったのですが、それをうまく活かせず人を殺してしまいます。人里を離れて暮らしてた彼のところにも悪意を持った人に嫌がらせをされて、それでブチ切れた彼は見境なく人を殺す暴れ者になってしまいます。
やがて彼は東尋坊に流れ着くのですが、そこで宴会をやっている人たちにかけられた優しい言葉にふっと気が緩んでしまったとうせん坊は騙されて縛り上げられ、崖から落とされてしまいます。今でも彼の怨念が、吹き上げる強風として海上で吹き荒れています…。
元になった話はもう少し違うんですが、これ、子どもに見せるにはかなり重い話ですよね。この後に「人間っていいな」流されても困るんですけど。
周りの人間が彼を怪物に変えた
しかし昨今のいろんな事件を見てもわかる通り、実際に過去にこんな人はいたし、今も間違いなくいるんですよね。もちろんとうせん坊がやったことは大量殺人で許されないことですが、彼をそこまで追い込んだのは間違いなく周囲の人間です。この話、すごく怖いのはとうせん坊以外の村人の瞳が白く描かれてるんですよね。これはとうせん坊から見た周囲の人間たちということを表しているのでしょうか。はっきりとはわかりませんが、少なくとも誰一人彼のことを見てあげていなかった。ただひたすら彼を迫害し、彼をモンスターに変貌させてしまったということは言えるでしょう。
もし、誰か1人でもとうせん坊に優しい言葉ををかけてあげていれば、彼に愛を与えてあげていれば…と思わずにはいられないんですが、しかし、じゃあお前ができるか?誰がやるんだ?と言われたら恐らくできない。そこが本当に難しい。
あなたの周りにも「とうせん坊」はいる
京アニ放火事件や安倍晋三氏襲撃事件のことを調べてみると、犯人たちが周囲からどんな扱いを受けてきたんだろうと考えてしまいます。映画『ジョーカー』のように、救いのない環境を生きてきた被害者がモンスターに変貌し、自分を見捨てた世界に復讐している…と、よく言われますよね。もちろん自分は実際に起きてしまった事件の加害者は裁かれなければいけないと考えており、絶対にそこを取り違えてはいけないと思っています。しかし、物語として「とうせん坊」を見てみるとどうでしょうか。彼らの気持ちが「わかる」…とは言いませんが、「少なくとも一度はこんな経験がある、言われたことがある」、「真に悪いのは我々ではないか、この世界ではないか?」そんなふうに思わされてしまう時があります。
自分たちもいつか、悪意なく迫害し続けてきた「とうせん坊」に復讐される未来が待っているのかもしれません。加害者が被害者になり、また被害者が加害者になる。この地獄のような連鎖こそ、この世界の一つの本質なのかもしれません。